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仙台高等裁判所 昭和27年(ウ)4号 決定 1952年1月28日

異議申立人 債務者 裏磐梯山林組合 代表者 河野善九郎

訴訟代理人 勅使河原直三郎

被申立人 債権者 高橋真一

主文

本件を福島地方裁判所若松支部に移送する。

理由

仮差押又は仮処分決定に対する異議の申立については、仮差押又は仮処分の取消に関する民事訴訟法第七百四十七条第二項(第七百五十六条により仮処分に準用)のような管轄に関する特別の規定はないのであるが(同法第七百六十二条は仮差押、仮処分に関する本案の管轄裁判所は原則として第一審裁判所であり、ただ本案が控訴審に繋属するときに限り控訴裁判所とすることを規定したに止まるものであつて、仮差押又は仮処分決定に対する異議についての管轄裁判所まで規定したものではない。)、同法第七百四十五条(仮処分にも準用)の「裁判所」は、前数条の規定から推して、仮差押又は仮処分決定を発した裁判所を指すものと解すべきであり、結局仮差押又は仮処分決定に対する異議申立については、当該仮差押又は仮処分の本案訴訟がいずれの裁判所に、またいかなる審級に繋属するを問わず、現実に仮差押又は仮処分の決定をした裁判所の管轄に専属(同法第五百六十三条)するものというべきである。けだし、仮差押の申請についての裁判を口頭弁論を軽ずしてすることができ(同法第七百四十一条)、仮処分の申請についての裁判も、本来口頭弁論を経るのを原則とはするが、急迫な場合にはこれを経ないですることもできる(同法第七百五十七条第二項)こととし、以つて迅速処理の要請に応え得る所以のものは、仮差押又は仮処分裁判所は口頭弁論を経ないで仮差押又は仮処分決定を発しても、債務者の異議申立を俟つて必要的口頭弁論を行い、判決手続により、自らしたさきの裁判を是正する機会が他日に留保されているからであつて、かように迅速処理に伴う弊害の除去についての留保があつてこそ、仮差押又は仮処分裁判所は決定手続により躊躇なく仮差押又は仮処分命令を発し得るわけである。すなわち、仮差押又は仮処分決定に対する債権者の異議は、口頭弁論を経ないでされた裁判につき、留保された口頭弁論を開始して判決手続により当該仮差押又は仮処分の当否の裁判を求めるものに外ならないからして、この趣旨からみても、異議申立は本案の繋属する裁判所にかかわることなく、現実に仮差押又は仮処分決定を発した裁判所の専属管轄に属するものと解せざるを得ないのである。本件仮処分異議の申立は、福島地方裁判所若松支部の発した仮処分決定に対するものであるから、その管轄が同裁判所に専属し、当裁判所に属しないことは、以上の理由により明らかである。よつて民事訴訟法第三十条により本件を福島地方裁判所若松支部に移送すべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 谷本仙一郎 判事 猪瀬一郎 判事 石井義彦)

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